今のベトナムと日本の人的資源(若者)への投資と回収の違い
高額なお金を人的資源(若者)のどの部分に投資するか?
「ベトナム=人件費が安い」
そんなのはとうの昔となってきている印象です。
日本で技能実習を修了し、満了帰国した元実習生もけっこうな賃金待遇で活躍していることを耳にする機会も増えてきました。
ベトナム国内で、エンジニアや技能工であったり、生産管理者として、日本円で12~13万円の賃金待遇で活躍している帰国生も2021年現在ではぜんぜん珍しくありません。
特にベトナム都心部の賃金高騰が目覚ましく、海外就労経験者でなくても大卒の優秀なITエンジニアなんかだと、ベトナム国内に展開する外資系でもっと稼いでいる若者も普通に現れ始めているようです。
また、昔の日本でもそうでしたが、今のベトナムの労働力人口の主軸は兄弟や同世代がそもそも多い為、必然的に起業家も多いです。
なぜかというと、兄弟や同世代が多いと、家業を継ぐだとか、公務員の採用枠だとか、その他の仕事にしても通常の雇用枠から外れる余剰労働力がどうしても発生するからです。
その為、起業してなんらかの商売をするか、出稼ぎや留学で海外へ行こうか、となってきます。
ベトナムは、あのベトナム戦争後もなんやかやで80年代後半までズルズルとカンボジアや中国とも戦時状態でしたから、90年代もベビーブームが続いています。
日本に来日するベトナム人が技能実習生や留学生で2016年あたりから日本全国で急増しましたが、彼らこそがベトナムの90年代のベビーブーマー世代です。
豊かになり始めた両親や先に社会人となった兄姉といった家族からの資金援助や担保を元に銀行から融資を受けて、弟妹が技能実習生や留学生として来日しているわけです。
そういった来日が急増するベトナム人に対して、途上国から多額の借金をして出稼ぎにやってくる可哀想なベトナム人というマスコミや世論のイメージで彼らを安直に捉えていると、そもそもの経済成長の源泉を見誤るのではないかと思われます。
ベトナムは、若年層の余剰労働力へ果敢に投資することによって、リターンを得ているのです。
両親や兄姉、もっといえば、地元のアグリバンク(日本のJAバンクみたいなの)も含めて、子供や兄弟の下の子を中心に余剰労働力である人的資源(若者)へ投資することで、リターンを得ているのが今のベトナムです。
ハッキリ言って、これは中途半端に進学や就職をしたり、しょうもない商売の起業をするよりもリターンの確実性が高く、かなり割の良い投資だと思います。
人材として、苦労しながら海外生活と職務経験を積むことができる副次的なリターンもありますし、かつこれが後々に大きいのです。
出稼ぎが所得格差を活かすキャピタルゲインだとしたら、この副次的なリターンは長期にわたって得られる配当のようなものでしょうか。
職務経験以外においても、日本だったり、台湾だとか韓国で出稼ぎ生活をしていると、いろんな生活インフラの部分で彼らは母国との彼我の差を痛感します。
そして、彼らの痛感したその部分が帰国後のビジネスチャンスであって、のびしろでもあります。
そういった海外(就労・留学)経験者がまだ若い年齢でどんどん帰国してきます。
今のベトナムにおいて、この人的資源への投資と回収のサイクルは地味にもの凄く経済効果を発揮しているはずです。
一方、今の日本でこういった実利のリターンが明確に実感できる教育投資や人的資源(若者)への投資はどのくらいあるでしょうか?
今の日本は余剰労働力でもない人的資源(若者)のどこに投資をしているのか?
例えば、地方から首都圏や都市部の大学に進学した場合、家族や本人に高額の学費と生活費の負担がのし掛り、卒業するまでそれらが年間200~300万円の金銭負担というケースもザラでしょう。
しかも、卒業後に普通の会社へ入社したくらいでは日々の生活にギリギリで奨学金の返済なんてとてもじゃないけどままならない、なんて話もよく聞きます。
日本の大卒初任給は、ちもんやんの新卒時のそれと驚くべきことに殆ど変わっていないからね。(最賃はかなり上昇しているけどね)
まったくもって、ベトナム人と日本人のそれぞれの若者のどっちが可哀想なんだという話です。
ベトナムでフォーカスされるのは出稼ぎまでの渡航費としての高額な手数料ですが、じゃあ、卒業後に就職してもリターンが得られない日本の教育機関の学費(手数料)はどうなんだという視点もあります。
一般的に社会経験のまだ乏しい若者が異国の地で言葉を学びながら就労をして生活をすることがどれだけ大変かというのは想像に難くないでしょう。
「若いうちの苦労は買ってでもしろ!」を地でいっているのは、今のベトナムの若者と彼らを取り巻く環境だったりします。
前述しましたが、そういった若いうちの苦節数年で得た海外生活の経験や職務経験の方が、目先の出稼ぎで得た金銭(キャピタルゲイン)よりも、実は当人にとっても社会にとっても将来にわたってリターン(配当)が大きいのです。
今のベトナムの人件費の高騰の源泉はそういうことだったりもするのではないでしょうか。
もうしばらく続きそうなベトナムの人件費の上昇
ちなみにベトナム人にとって、渡航先の日本は選択肢の一つにしか過ぎません。
台湾や韓国でも質の高い労働力として需要があり、日本への渡航者と同程度ないしはそれ以上の渡航者がいます。
いずれにせよ、相当数の若者が海外へ出ているという事実があるのです。
平成不況と叫ばれながらもバブル景気の名残もあった90年代の日本。
今では隆盛を極める有吉がまだ猿岩石だった頃、バックパッカーでアジアを中心に周遊していました。
今のベトナムの若者はまだまだその前段階であり、日本・台湾・韓国・他へ出稼ぎに行っている状況ということを考えると、ベトナムの人件費の高騰はまだしばらく続くものと思われます。
ただ、そう遠くない日に観光客で大量に来日し、爆買いの主流になっていくのはベトナムで間違いないでしょう。
帰国後に生活水準の向上した元技能実習生や元留学生が幸せいっぱいで家族を連れて来日し、日本語を少しずつ思い出しながら青春期を過ごした地を旅行するのです。
「パパ、日本語が話せるの!?」なんて子供に驚かれながら、若かりし頃の武勇伝を子供に話して聞かせるパパとママ。
そんな萌愛な未来はもう始まりつつあるかも。
おまけの話
ベトナム人は国民性として見栄っ張りです。
買い物のお釣りもいい加減で、チップも当たり前の商習慣など、日本みたいに消費税で1円単位でこまごまとした取引はありません。
商取引の現場で端数なんてざっくりと切り上げが当たり前です。
露店なんかでもお釣りがガム1枚とか飴ちゃんだったりしますから。
そもそも庶民の感覚がインフレ傾向にあるんですよ。
勿論、諸々の要素があってのインフレですが、端数をざっくり切り上げる彼らの感性であったり、時に行き過ぎたチップ(袖の下)など、表面化されない地下経済もあって、ベトナムのインフレ傾向が助長されている部分はけっこうあると思われます。
1円単位で管理させる日本の財務省や国税局庁とか税務署が行き過ぎなんですよ!